20201201

街から人が消えた。マスクは顔も知らない誰かに買い占められた。手に入れたい人が店前で列を成し「在庫はございません」と店員が頭を下げた。上手に消化できない憤りや、心に留めておくには難しい不安が口から漏れ出し、それも例のアレみたいに人から人へ伝染していった。空が曇り、それぞれの町にいる音楽家たちの演奏は止まり、頻繁に繰り返していた再会の約束も無くなった。

 

2020年もあと1ヶ月になった。音楽は気付けばどこかのタイミングで再び慎重に鳴り始め、設けられた制限の中ではあるものの、その火の暖かさを少しずつ肌で感じられるようになった。誰かが必死に守り続けてくれた屋根の下で、みなで口元を隠し、そばにいるようでいない距離感を保ちながら、今ならではの「普通」を掴もうとしている。

 

その火が自分たち、自分たちの心からだを暖めるものである反面、今は一瞬にして関係性や建物ごとボヤにするような大きな炎を生み出すキッカケでもある。頭では分かっていることを口にしてみる。大きくなった炎に誰かが涙を落としたとて、巻き戻らない時間がある。と、頭では分かっていることを口にしてみる。誰に教わるでもなく、自分で考える。あれやこれを。

 

12月に差し掛かり、外はもう随分と冷え込む。不要不急の外出は危険だと囁かれている渦中で、僕たちは顧みずスタジオで曲作りに励み続けた2020年だった。結果論でしかないけれど、健康を保つことは出来ている。メンバーそれぞれがアレに対しての自己解釈・自制心を持ち寄りつつ、ライブが出来る場所・出来ない場所を取捨選択したりした。「結果健康でオーライならそれで良いのか?」と言われるとそうではない活動の仕方だったのかもしれないけれど、なるべく頭を使って考え・自制・活動するように努めた。揶揄されることは拒んだりしない。

 

運が良かっただけなのかもしれないし、勝算の無いものに賭けていたのかもしれない。そしてほぼ同時に、何かが欠けていたのかもしれない。2020年。黄色信号に足を止めず、闇雲に走り抜けたようでもあった。良くも悪くも、あの時アクセルを踏み込んだその未来に立っている。

 

明日になれば劇的に雲が晴れる、という訳でもない。良いことと言えば、作詞作曲ともに難航し、レコーディングを何日か延期することで完成した音源はプレス入稿前作業に入ろうとしている。

 

誰かの手に届いた時、いやもう少し手前の話、買い手はどんな風にそれを手にとってくれるだろうと想像する。あと少しだけ未来の話になるけれど、感想があれば、いつか口元すら隠さず聞かせて欲しい。

 

音楽は再会の為にある。違ったら申し訳ない。