COEXIST

 

過去にCDリリースした『前線に告ぐ』『遅くなる帰還』『THREE』のアルバム3作品をサブスクリプション(配信)でもリリースする事にしました。2/7から随時リリース致します。各アルバムの配信に1週間の間隔をあけていますので、時系列をなぞったり、来たる翌週を心待ちにしたりして頂ければと思います。

1作1作に宿っていたエネルギーを噛み締めて頂いているうちに、3/6には4th ALBUM『SUNG LEGACY』がCDリリースになります。それらの流れの最後であり、これからの始まりに位置します。是非CDショップ店頭や通販、我々の物販などで直接CDを手に取って頂けると幸いです。発売日からの同時配信は一旦ありません。実に7年半ぶりとなる、フルサイズのアルバムに仕上がっております。4月からツアーも決行する予定ですので、是非そちらも。

ここから先は配信開始に至った経緯というか、つまるところ自分の頭の中の話になります。書き留めておいた方が良いと思ったので、一旦書いてみます。

 

作品リリースは全てCDや会場販売のDVDのみで11年ほど活動してきました。そういうマニフェストだったというよりは、興味のない事はとりあえずやらないというスタンスだっただけと言うか、取り組もうとしてきた事にはふさわしい理由を探してきたと説明するが正しいです。故に、主にCDでしかさよならポエジーの作品に触れられない事は「時代的に不都合」なのか、それとも単に「バンドの特色のひとつ」なのか、それをどのように捉えるかは自分たち以外の方々だったかと思います。不都合だと深く自覚した事も、それが特色だと明言した事も特になかったかと。

単に、作品を作るならCDを用意して売りたかったし、配信という手段は常々「自分たちにはあまり関係のない話だった」というところです。当然、所属レーベルから配信を差し止められていた訳でもありません。自分たちの活動は自分たちの自我をメインマストとして尊重され、有り難く今日までその航海を続けることが出来ています。


結論から言うと「サブスクを開始しよう」と方方に提案したのは自分で、理由は「それも良い」と感じ始めたからです。

サブスクに自分たちの音楽が存在しない事を危機的に感じた訳でもなく、今の直接的な活動に限界を悟った訳でもありません。配信を所望される方々の声を耳にしたり、自分の中でも諸々を考えた結果、あらゆる懸念点や心配事を上回って「それも良いな」という動機に変わった瞬間が遂に来た、というだけです。

 

そしてサブスクでのリリースを決定させた今でも、サブスクに対する個人的な懸念点は払拭出来ていなかったりします。そうなんです。

個人的には、サービスを利用する上でのプライスは安過ぎると感じているし、故に音楽そのものが不自然にディスカウントされているようなネガティブな感覚はジトジトと感じています。冷や汗のようなものです。

アルバム一枚すら買えない金額で、何千何万何億という音楽にアクセス出来ているというこの感覚に、改めて違和感を覚える人が今の世の中にどれくらいいるのだろう?と考える事が少なくないです。

音楽を作る・受け取るという行動やその仕組みへの価値が、こういった利便性の高いサービスや手段の幅広い普及によって『音楽って思っているより安いものだよね』という印象を段々と打破出来なくなっているように感じます。そういった脆弱さに対して、漠然とした不安を抱かずにはいられないという話です。

そしてそんな異論を自分1人が唱えたとて、誰にもそれが異論だという印象すら与えられないままこの時代は直進しています。まぁでも仕方ない。とほほ、くらい。本当に別に誰も何も悪くないはず。


しかし配信ばかりが消費され直売するCDが売れなくなると、経済的な難はどこかでどうしても生じるものです。自分たちが音楽を狂信的にプライスレスで配り続ける慈善団体ではない以上、お金の事もうまくやりくりして行かなくてはいけません。自分たちのような規模感で音楽を続けるとなると。

目指している作品を作り上げる為には、自分たちが持ちえない環境や設備・そのノウハウを持った専門職の方々の協力を得る必要などがあり、まずはそこに対価を支払う事からのスタートになります。チンクルホイの魔法で作品がポンっと出来上がる訳でも、誰かがボランティアでそれらを無償で貸し出してくれる訳でもないからです。

CDの価値というのは、物の価値であり、こだわりの価値であり、音楽の価値であり、その仕組みへの価値です。形として残り続けるというロマンや、ならではの特色や魅力を宿しているのと同時に「諸々への対価」に相当するような値札をきちんと正面からラベリングしています。不自然に強調するでも、いやらしく隠している訳でもありません。少なくともさよならポエジーの作品はそうです。『前線に告ぐ』は¥2000、『遅くなる帰還』は¥1700、『THREE』は¥1400。『SUNG LEGACY』は¥2400。どうですか?また、どうでしたか?

それらが様々な場所や方々に直接届いていく体験はとてもかけがえがなく、とても豊かな瞬間です。お金の話をした後でこう言うとアレかもしれませんが、これはお金の事だけではありません。困難を乗り越え生まれた作品が届いた喜び、それに対価を支払ってくれる方々がいるんだという喜び。目の前にいなくても、そういう人がどこかで生きているんだと想像できる喜び。そういった体温を宿して、自分たちの心に深く深く刻まれています。

CDを手に取り、さよならポエジーの音楽を日々楽しんでくれている方々には感謝してもしきれません。ただ音楽がやりたいんだ、というある種盲目的な生き方をしてきた自分たちに沢山の喜びをありがとうございます。もし気が合いましたら、これからも何卒宜しくお願い致します。


とはいえ、ここ数年で自分もサブスクを用いて音楽を聴く事が日常化しています。作品にアクセスできるスピード感や、どこにいても再生出来る手軽さをこの両手で体感しています。「…にしてもおぞましい程に安過ぎるサービスだ」という自分の戯言を除けば、手段というよりはとても巨大なタイムマシンに日々触れている気分です。

盤として手に入れていない作品を聴いたり、買ったは良いがどこに片付けたのか忘れてしまった昔の作品にふと再会したりしたりして、このタイムマシンの恩恵を日々実感しています。


そうした日々の中で「自分たちの音楽がサブスクにあったらどうなるだろう?」と考え始めるには、やはりそう時間はかかりませんでした。抱いていた懸念点や異論が脳内で並走しているものの「ここに自分たちの音楽があっても良いんじゃなかろうか?」という感覚は日を増して覚えてきました。抱えていた難問の答えは、こうして日々変わりゆく自分の生活の中にあったという事になります。

そうして、ごく自然な結論として「配信もやってみよう」という答えが自分の口から出てきたという事になります。色んな課題を不用心にパスしている気がするが、やってみるぞ俺、というヤツです。


ひとまず先に過去作品が配信となりますが、これだけはお伝えしたく。様々な時間軸の中で皆さんが対価を支払って手に取ってきたそれらの価値や思い出や時間や体験は決して消えません。手のひらの上で、頭の中で、引き出しの奥で、どこかのライブハウスやいつかのCDショップの中で、その輪郭は形を変えません。

CDだけを売り続けていた自分たちの手段が「時代的に不都合」だったのか、それも「バンドの特色のひとつ」だったのか、どう捉えられていたかは今でもわかりませんが、そんな印象や垣根を超えて作品を直接手に取って頂いた皆さまのおかげで、今日もおそらく明日も、さよならポエジーが続いてきたし続いていくだろうと断言致します。


今更ながら、CDと配信において双方には双方で異なった体験と価値があり、決してイコールで結ばれる事はありません。力説したところで野暮であり、何よりこれは皆さんの直接的な体験であり、皆さんの想像力を信じています。

「豊かさ」とは単に「不都合らしきもの」を順番に取り除いていく事ではなく、個人が何を選択して何を体験していくかの結晶だと、その別名だと、自分は思っています。その形は様々です。もちろん対価だけが全てを物語るなどと偉そうに思っている訳でもありません。時に、それは交わした手と手のようなものです。

「サブスクがあるならCDなんて買わなければ良かった」という一定数散見されるご意見に関してですが、「そもそも等しくないものを、どうか等しそうに捉えないでもらえたら」という自分の内心と言葉だけ、ささやかながらここに残しておきます。何かのヒントになれば幸いです。

 

そろそろ以上になります。「サブスクでさよならポエジーが聴けたら喜ぶ人もいるだろうな」と思ったのです。どうかその世迷言が、なるべく多くの人に憎まれる事なく、音楽の価値を不自然にディスカウントする事なく(してしまうのかもしれない)、損ない合うでもない共存に直結する何かを成し遂げられたら幸いです。今までサブスクに関して何度か唐突にSNSで発言する事がありましたが、今日のこの書き置きというか主張が一旦自分にとっての最新版となります。明日には違う事を考えていたりするかもしれませんが、これが今にとっての本当です。

とりあえず、やったことがないので、やってみます。


最後にはなりますが『SUNG LEGACY』は結構いい作品かもしれません。相変わらずこれしかできないんだな、というか、こういうバンドがまだこの時代に居たっていいだろうという感じです。そして制作過程で何度も自分の力不足ゆえの完成延期を重ねてしまったので(1年以上伸びてる)、その分作品は「売りたいな」というマニフェストが今の自分にはフツフツと。要は、色々やっても売れたいのではなく売りたいのです。まぁいつもの自業自得ですが。

 

ウルトラ長くなりましたが、そういう事です。相変わらず、何も諦めてはおりません。どうかこの英断に幸あれ。何かわからない事があれば、ナカシーに訊いてもらえると「…ん…そうらしいです」くらいは返してくれるかと思います。引き続き宜しくお願い致します。